2009年11月22日日曜日

サイコシス

あうるすぽっと
暗いロビー
ロビー中央に木枠造りの大きな血のような赤い水をはった
その血だまりの中に
マフラーから煙を吐くバイクが逆さまに突っ込んでいる
突っ込んだバイクは街灯に照らされている
少し離れたところから右ハンドル
もう少し離れたところにはスネアドラム
スネアドラムから微かに
リズムが刻まれている

赤い水面は静かにヌラヌラと光っている

天井に近い壁のコーナーに中東系の男性が話している様子の映像が流れている

しつらえられた場の異様さに比べ
集まった観客はザワザワと
係員の呼び掛けに合わせ
当たり前のように入場の列を作る
1番から100番まで
次は101番から130番まで

入場すると
本来の客席はビニールで丁寧に養生されている
私達観客は本来の舞台側に並べられたパイプ椅子に客席側に向かって座らされる

客席と養生された元客席の間には先ほどロビーにあったのと同様の木枠造りの大きな血だまり
ヌラヌラと光る赤い水

養生された客席側には
バイクの半分
ロッカー
サンドバッグ
卓球台
筋トレマシン
それらが乱雑に置かれている
一体何を始めるつもり?

血だまりの塗料の匂い
相変わらず観客はその場が当たり前の日常のように他愛ないお喋りを続け
ひどく鬱陶しい

客入れ明かりのまま
日本人のボクサーと普段着の白人がパンチの練習をしながら現れる
場内アナウンス
舞台が始まる
パンチを続けるボクサー

暗転

静かに血だまりの中に立つ上半身裸の痩せた青年が喋り始める
後方には逆さ吊りにされた長い長い髪の男

心臓の拍動に合わせて明滅する弱いライト

客席に点在する顔を隠した出演者たち

片言の日本語を叫ぶ東洋人の女と
彼女の言葉を繰り返す日本人の男

上からドラムの音

激しく怒り続ける男

ミキシングされた声

天気予報を何事なく発語し続ける女
フェンシング
バスケットボール

長い髪の男が赤い水面にすっと立つ
彼の奇異な発声に合わせて
泡立つ赤い水面

リストカットのヨーロッパ人男性
リストカットする気持ちを
苛立ちを
うんざりするほど叫んでいる

卓球台に次々と落とされるピンポン玉

スーツ姿の男が赤い水に足を踏み入れると
今度は胸元まで沈む程に深い
赤い水面からゆっくりと現れる公衆電話ボックス
カバンを頭に掲げ
ゆっくりと歩いて
電話ボックスに入るスーツ姿の男
コインを入れ電話をかける

長い髪の男が
長く不愉快な音を喉から発する
ピンポン台の上で自身の狂気を受け入れ
しかしなおまともでありたいと叫ぶ東洋人の女

4:48
それから1時間12分だけ
まともでいられる

明滅する光
アコーディオン

舞台の終わりに長い髪の男がゆっくりと赤い水の中に沈んで行く
長い髪を最後に沈めて


養生された客席に
沢山のエキストラが
次々と入って来て座り
私達を観賞する

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