2009年10月24日土曜日

光の匂い

髪、首、耳、目、鼻、口、歯、喉、頬、顎、胸、腹、背、腰、脇、腕、肘、手、指、膣、 尻、腿、膝、脛、足、踝、踵……
肉という字同様に一字で表現できる部分を
光が閉ざされた部屋の中
ライトの光で肉体の隅々を照らし出したい。

あれは確か
20年も前のこと
私達の初期の撮影は
まさしくこの行為だった

彼は最近知った
魅惑的なブルーについて
滔々と語り続け

私は冷たい皮膚を
無機質な暖かい床に横たえていた

その時
皮膚で感じた光の感触と
私の體に浸食する
カメラの鋭さを
私はこの20年もの
長い長い年月
ずっと
ずっと
追い求めてきたんだった


その行為が例えば
私達に取って
二度と取り返しのつかない
退廃への道行きであろうと

私は甘んじて
死にゆくよりも
ずっとずっと軽やかに
彼の作り出す
甘美な映像の中へと


ゆっくり

沈んで

行くのだろう


願わくは
死にゆく私を
映像の中へ
留めて

2009年10月17日土曜日

HM/電車

心日庵の帰り道
地下鉄の中
私は酔った真っ赤な顔で
ハイナー・ミュラーのテキストを読んでいた

ハイナー・ミュラーをライフワークと決めたばかりで
手始めにテキストの再編成

隣のお兄さんが微かにこちらを見る
ただの酔っぱらいだろうと
気にしない
隣の彼の存在を忘れる程
テキストに没頭し始めた頃
彼が「すみません」
と急に声をかけてきた

私は何か注意されるのかと身構え

「ハイナー・ミュラーやるんですか?」と聞かれ

余りの意外さに驚いた

「どうしてこの人はハイナー・ミュラーを知っている?」

彼は現代美術のキュレターで
以前一緒に仕事をしたジャーマンジャパニーズの映像作家(ヴィデオアーティスト)がハイナー・ミュラーの話をよくしていたので と

私は夢中になって
自分はハイナー・ミュラーに傾倒していた岸田理生さんの劇団にいたこと
ベルリンに行った時の
西ベルリンと東ベルリンの激しいギャップに衝撃を受けたこと

東ベルリンのタヘレスで
片目のダンサー伊藤キムに出逢ったこと

いろいろやってきて 今
ハイナー・ミュラーを一人でやりたいと思っていること

大急ぎで話す

それから
ベルリンのこと
ビデオアートのこと
いろいろ話し
(驚くことに
彼はタヘレスも伊藤キムも知っていた)

それから
名前を聞き合って別れた

きっと
電車の中では
いつも何か
「出来事」が
起こっている

好きなことに真摯に向かっていると
世界はどんどん広がって行く

2009年10月12日月曜日

静御前

毎週月曜日の朝は心日庵でお能のお稽古
今年の題目の『船弁慶』も佳境に入り
後2週を残すところとなった本日は
いつもの北浪先生はお休みで
女性の先生でした。

いつもよりピンと厳しい緊張感で丁寧に教えて戴けて
本当に良かった
気のせいか
自身の出来もいつもより2〜3割良く出来た気がします

何事も心持ち次第ですね

さて、前半の謡いが終わって
後半の仕舞いでは
静御前が中盤で
「かかる例(ためし)も有明の」と謡った後
不思議と自然に想いがこみ上げて来て
お能で初めて
とても充実した心持ちになりました。

お能はもう2年目になりますが
正直ゆる〜い雰囲気のクラスで
今までは稽古場で節や形を覚えて一年が終わるペースでしたから
シテの心情を表現するところまではゆめゆめ程遠く
間違えずに通すだけで精一杯でしたけど

例えば通常の夜間のクラスでは台詞やミザンスを覚えるのは各自一週間でやってきて
コーチの前では
やってきたことを見ていただくわけですから

お能も本来はそうあるべきなのですよね。

はからずも今日のお稽古で偶然静御前の心情を感じた後
「もっとやりたい」と
素直に思えたのでした

何事も目的や目標が明確だと
迷わず真っ直ぐに進めるのだ

YUKI

2009年10月9日金曜日

匂いの羅列

例えば


柔らかい息遣いの匂い
生と死の狭間
滲む汗の匂い

熟成した皮膚の匂い
掠れた吐息の
嗚咽する言葉の匂い

生まれ落つる赤子の
母の血にまみれた匂い

暗闇の
静謐な匂い
病めるものたちの
生きづく匂い

憎しみの匂い
そして絶望の

河のそばのクウキの匂い
晴れた昼下がりの
激しく雨が降った後の
アスファルトの匂い

水の匂い

貴方を傷つけた後の
甘くねっとりと
溶けるような匂い

それから
死者へ手向ける
白い百合の花の
噎せかえる匂い

2009年10月2日金曜日

角筈にて?

あっこさんと「角筈にて」をやる
うまい人相手だと余計な事に気を回さなくていいのがいい
途中あっこさんが激して空気ベッドを蹴った時だけ動揺した
その場にそぐわないエネルギーだったように感じて
何か別のことに苛立っているのではないかなどと
勘繰ってしまったからだ

自分に入り込み過ぎる
余計な事に気を回しすぎる
怖がらないで場に任せる勇気がもう少し欲しい

それにしても日に日に
自分が本当にやりたいことが明確になっていく気がして快い

木曜日は「匂いの映画」について語る為の逢引
だのに猛烈な台風が上陸する予定らしい